2011年8月24日水曜日

JNK-dependent Yki activation

さて、先々週の金曜日のゼミで発表した以下の二本の論文についてようやく書く気になった。この話題は書けば長くなりそうな気がしたのでどうしようか迷っていたのだが、まぁとりあえず自分の頭の整理のために徒然なるままに書いておこう。

Regulation of Hippo signaling by Jun kinase signaling during compensatory cell proliferation and regeneration, and in neoplastic tumors.
Dev. Biol. 350: 255–266.
The Salvador/Warts/Hippo pathway controls regenerative tissue growth in Drosophila melanogaster.

創傷治癒(wound healing)や再生(regeneration)の過程において、組織中で死んで除去されていく細胞の周りの細胞はそれら失われた部分を補償するための細胞増殖(compensatory proliferation)を起こす必要がある。これら二本の論文はどちらもハエのimaginal discを用いて、このcompensatory proliferationの制御にHippo pathwayが関わっていることを示したもの。
compensatory proliferationにはWg signalingとDpp signalingが関わっており、死んでいく細胞において引き起こされたJNK pathway activationがWgの発現を誘導し周囲の細胞にcompensatory proliferationを促す、ということがimaginal discを用いた以前の研究で既に示されている(Perez-Garijo et al., 2004; Ryoo et al., 2004)。さらに最近の論文において、このWgの下流でdMycが働いていることも示された(Smith-Bolton et al., 2009)。

今回の二本の論文ではどちらにおいても、Gal80tsを用いてpro-apoptotic gene(Debcl、Eiger、 Rpr)の強制発現のタイミングをコントロールすることによって一時的にwing discに広範囲の細胞死を誘導し、その後のregenerative growthを観察している。これらの実験において、apoptosisが誘導された細胞およびその周りの細胞でYorkie(Yki)のactivation(re-localization of Yki to the nucleus、upregulation of ex-lacZ)が観察された。このYki activationはWtsもしくはHpoのco-expressionによって抑制されることから、実際にHippo pathwayを介したものであると言うことができる。また、yki heterozygous backgroudもしくはWts co-expressionによって再生の割合が大きく阻害されることから、Yki activationがこのregenerative growthにおいて機能的な役割を持っていることは間違いないと言える。

さて、Grusche et al.の論文ではこのWts上流のsignalingを調べるために、dachsfatexpandedのmutant backgroundでのregenerating tissueにおけるex-lacZの発現をwild-type backgroundのものと比べたところ大して変わりはなかったため、結局上流のsignalingは分からずじまいであった。
一方で、Sun and IrvineはJNK pathwayに着目した。regenerative growthを起こしている細胞、または実験的に誘導されたundead cellにおいてJNK pathwayがactivateしていることは過去に報告されている通りであり、この論文でも同様にpuc-lacZのupregulationが示されている。このJNK activationとYki activationの関係について調べてみたところ、このYki activationはPuckered(JNK phosphatase)のco-expressionによって抑制されること、またHepCA(active form of JNKK)による直接的なJNK activationによってもYki activationが誘導されることから、このYki activationは実はJNK pathwayによってコントロールされているということが分かった。さらにEigerもしくはHepCAのoverexpressionにおいて、droncのhypomorphic allele backgroundによってapoptosisを抑制した状態でもYki activationは見られることから、ここでapoptosis自体は別に必要がないとも言える。つまり、compensatory proliferationはJNK-dependent Yki activationによって促されていると結論づけることが出来るのである。
WgもJNK activationによって誘導される訳なのだが、wg-RNAiのco-expressionではYki activationは抑えられず、yki-RNAi co-expressionによってもWg upregulationは抑えられないことから、この二つはJNK下流でparallelに制御されているようだ。

JNKがいかにしてYkiをactivateさせるかについては結局分かっていない。ちなみにこのJNK-dependent Yki activationはeye discやleg discでは顕著ではないことからcontext-dependentであると考えなければいけないのだが、この論文のすぐ前に同じDr. KIのラボからadult intestineでも同様のinteractionが報告されている(Staley and Irvine, 2010)。

ふう、ちょっと休憩。

さて、個人的に楽しいのはここから。この論文におけるもう一つのハイライトは、lgldlgといったnTSGs (neoplastic tumor suppressor genes) mutant cellにおいても同様なJNK-dependent Yki activationが示されたこと。Grusche et al.の論文では、hyperplastic discs (hyd)、scribvps25eptTSG101)、linesといった、どれも皆imaginal discでwild-type cellに囲まれるとサバイブできずにapoptosisを起こすmutant cloneにおいて、mutant cloneおよびその周りのwild-type cellでYki target genes(exdiap1、CycE)のupregulationが示されている。
一方で、Sun and Irvineは、en-Gal4>lgl-RNAi or dlg-RNAiによって癌化が誘導されたposterior compartmentにおいてYki activationを観察した。このYki activationとtumor growthは、yki-RNAiもしくはWtsのco-expressionによって抑制される。このtumorigenic tissueにおいてもJNK activationが起こっていることは過去にも報告されている通りであるが、このJNK activationをbsk-RNAiによって阻害するとYki activationもtumor growthも抑制された。つまりnTSGs mutantのtumor growthもJNK-dependent Yki activationによって引き起こされているということになる。
ちなみに、去年Dr. HRラボから報告された論文(Grzeschik et al., 2010)で既にeye discにおけるlgl mutant cloneでのYki activationは示されているのだが、eye disc cloneで見られるようなHpoやRASSFのmis-localizationはwing discでは見られず、またeye discにおいてはYki activationに対するJNK activationの影響が見られないことから、eye discとwing discとではどうやらこのregulationはちょっと異なっているらしい。

一方で、nTSGs mutant cloneがwild-type cellに囲まれた場合、cell competitionによって除去されることが知られているが、この場合のmutant cellの細胞死もJNK-dependent apoptosisであることが分かっている。またこの場合、JNKがnTSGs mutant clone内だけでなくその周りの隣接するwild-type cellでもnon-autonomousにactivateされていることは以前にTI博士の論文で示されており(Igaki et al., 2006)、このsurrounding wild-type cellにおけるnon-autonomous JNK activationは、下流でPVR-ELMO/Mbc-mediated phagocytic pathwayのactivationを誘導することにより、隣接するoncogenic mutant cellのengulfmentによる除去を促している、ということもつい最近示された(Ohsawa et al., 2011)。しかしながらこのSO博士の論文では、mutant cellにおけるJNK activationをブロックしても隣接するwild-type cellでのJNK activationは抑制されないことが示されており、これはsurrounding wild-type cellにおけるcell-autonomous JNK activationであると考えられる。

こうして見ていくと、cell competitionによってapoptosisを起こすnTSGs mutant cloneで引き起こされるJNK activationは異なる2パターンの現象、(1) induction of apoptosis in mutant cells、(2) compensatory proliferation through Yki activation or Wg and dMyc up-regulation、を制御していることになる。(1)の場合はcell-autonomousな現象であるが、(2)の場合は実際にcompensatory proliferationを起こしているのは隣接するwild-type cellである。
それではどうやってneighboring wild-type cellsでJNK activationが引き起こされるのか?一つの可能性としては、wing discにおいてJNK activationが隣の細胞へpropagateしていくことが報告されている(Wu et al., 2010)。また今回の論文で示されているように、lgl-RNAibsk-RNAiをco-expressさせた場合にnon-autonomous JNK activationもブロックされること、さらにHepCAによるJNK activationによって周りの細胞でもnon-autonomousなYki activationが引き起こされることから、JNK activationのpropagationによって周りの細胞でJNK-dependent Yki activationが引き起こされると考えられなくはない。

ともあれ、nTSGs mutant cellがnon-competitive situationにおいて示すtumor growthの一つの原因がこのJNK-dependent Yki activationにあるのは確かなようだ。しかしながら、nTSGs mutant cloneはmosaic situationにおいてはcell competitionによるJNK-dependent apoptosisで除去されていくことと、YkiがactivateされたHippo pathwayのmutant cloneがwild-type cellよりも増殖能が高く、super-competitiorになり得ることを考えるとこの説明には矛盾が生じてくる。
nTSGs mutant cellのようなepithelial apico-basal polarityが破綻した細胞はEiger-JNK signaling activationが誘導するapoptosisにsesitizeされている(Igaki et al., 2009)と考えられるので、JNK activationがmutant cell内ではJNK-dependent apoptosisを誘導し、周りのwild-type cellではJNK-dependent Yki activationによってcompensatory proliferationを誘導する、つまりJNK activationのoutcomeはcell-context dependentに調節されているのだ、と言えばハァナルホドと納得してしまうのだが、Grusche et al.の論文を見ると、scrib mutant cloneでは明らかにmutant clone内でもex-lacZが強くupregulateされている。

lglscribのmutant cloneではちょっと事情が違うのかもしれないが、lgl mutant cloneにおいてはdMycのレベルが低下しているということも最近の論文で報告されている(Froldi et al., 2010)。また、dMycがHippo pathwayのdownstream targetであり、dMycはnegative feedback loopを介してYkiのレベルをコントロールしていること(Neto-Silva et al., 2010)も考えると、lgl mutant cloneにおいてはまずdMycのdown-regulationが起こってdMycのYkiに対するregulationが効かなくなることによりYki activationが起こるとも考えられる。mutant cloneにおいてdMycレベルが周りの細胞よりも低下した場合、competitive situationになってmutant clone内でJNK activationが引き起こされ、このJNK activationによってYki activationが引き起こされるということも考え得る。
うーん、しかしやっぱり全てのものをスッキリと説明することまだ出来ないか。。。

まぁともあれ、JNK activationがYki activationを引き起こすのに必要十分であるということ、そしてこのJNK-dependent Yki activationがimaginal discのregenerationおよびcompensatory proliferation、さらにはnTSGs mutant cellのtumorigenesisに関与しているということは今後必ず考慮に入れていかなければいけないということになりますか。

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