今回のコースタイトルは「Avanced Cell Biology」ということで、まぁどこの大学にでもありそうなものだけど、一般的な細胞生物学の教科書を読み進めていくような退屈な授業にはしたくなかった。そんなわけで、完全にオリジナルの新しいコースを作ろうと決めたものの、日本の大学でもこういうコースを担当したことがなかった自分にとってはかなりチャレンジングで準備が大変だった。単細胞生物と多細胞体制の違いについて話していた始めの数週間は特に大変だったのだけど、その後、germline specification、stem cells、cell competitionと進んでいったあたりから、ちょっと不思議な気分になってきた。始める前にシラバスを書いていた時点で、コース全体を通して一つの大きなストーリーになるようなイメージは持っていたのだけど、自分がこれまで20年以上に渡って取り組んできた色々な研究が、全てそのストーリーの一部としてぴったりはまっていくというような感覚。これまで自分の中では、それほど意識せずに行き当たりばったりで色々な研究をやってきたようなイメージを持っていたのだけど、実は知らず知らずのうちに一貫した興味を持ってやってきたことに気付かされた。つまり、授業という形で一つのストーリーを組み立てていく中で、自分が研究者として追い求めてきた「細胞の社会性とは何か?」というような大きな問いが見えてきた。大学のコースを作っていくことで自分の研究のコンセプトを再発見することになろうとはね。
アメリカの大学の先生は、結構こういう独自のcourse developmentをやる訳だけども、これは確かにものすごく勉強になる上に、改めて自分の研究を見直すことにもなる。そして、新しい独自のコースができると、それはかなり分量のある大きな物語になる訳で、本を書きたくなるんだろうなというのが分かってきた。