2012年6月29日金曜日

細胞のおしくらまんじゅう

さて、今自分が執筆中の論文と結構関連性が高そうなオモシロ論文が二本、少し前にback-to-backでNatureに登場したので思わず引用した。

Live-cell delamination counterbalances epithelial growth to limit tissue overcrowding.

Crowding induces live cell extrusion to maintain homeostatic cell numbers in epithelia.  

一つ目は発生中のハエのnotum(日本語では胸背板?)、もう一方はMDCK cellとゼブラフィッシュを実験に用いているが、基本的に見ている現象は同じものと思われる。その現象とは、「overcrowding-induced live cell extrusion」。簡単に言うと、上皮組織中で細胞数が増えすぎてギュウギュウ詰めになってしまった部域では、細胞達の“おしくらまんじゅう”の結果、いくらかの細胞が上皮組織からはじき出されることによって細胞数が減少し、この過密状態が緩和されると。この現象は形態形成が進行している上皮組織や腸上皮のターンオーバーにおいて見られることから、intrinsicな混雑緩和システムであると考えられる。
なんらかのダメージを受けたapoptoticな細胞が上皮層からextrudeされることはよく知られている現象だけども、これらの論文で示されている現象はちょっと事情が異なる。つまり、このおしくらまんじゅうによってプリプリ押し出される細胞達は生きたまま上皮組織の外へはじき出されるのだ。これはちょっとアブナイですなぁ。いや、はじき出されたら落ちてしまうからアブナイやん、という意味ではなくて、これがoncogenicな変異を持っている細胞とかやったらどうすんのん、という意味で。epithelial–mesenchymal transitionを経ずともmetastasisが起こってしまう可能性が考えられる。まぁ普通はanoikisに至るんだろうけども。で、逆にこのシステムに不具合が生じると、混雑する箇所で細胞がモリモリ増えちゃったりしてこれまた危険。実際ゼブラフィッシュの発生中の尻尾でlive cell extrusionをブロックすると尻尾の先っちょのところに腫瘍っぽい細胞塊がもりっと形成されることが示されている。つまり、これはepithelial integrityを保ちながらtissue sizeをマイナス側に制御するfine control systemと言えるか。

メカニズムに関して、ハエの論文では、ギュウギュウ詰めの部分で個々の細胞のjunctional lengthにばらつきが生じ、これがいくつかの細胞におけるprogressive loss of junctions and apical areaを引き起こす。つまり、一つの細胞が隣接細胞と接する境界が次第に減っていく、所謂「neighbor exchange event」がbasal delaminationを引き起こすと。しかしながら、apoptotic cellのbasal extrusionにおいてはこのneighbor exchangeが見られない。つまりこれは“ギュウギュウ詰め”という物理的要因によって生じるcellular anisotropyが引き起こすstochasticな現象であるとのこと。
もう一方の論文では、apoptotic cellを実際に押し出すメカニズムとしてのS1P signalling through Rho-kinase-mediated actomyosin contractionが、このlive cell extrusionでも同様に使われているようなのだが、その上流で物理的な“ギュウギュウ詰め”状態を感知してcontractionを促すものとしてstretch-activated ion channelの関与が示されている。mechanotransducerっていうやつですか。ガドリニウムイオンでブロックできるんだとか。これは初めて聞いたわ。ちなみにこのstretch-activated ion channelはapoptotic cellのextrusionには関与していないようだ。
つまり、extrusionをトリガーするメカニズムはapoptotic cellの場合とは異なっている。ちなみにcell competitionにおいてもいくらか異なるタイプのmutant cellがapoptosisを起こす前にextrudeされる、つまり“live cell extrusion”が見られるのだけども、これが同じメカニズムで起こっているのかどうかは分からない、というかたぶん違うだろう。

ハエの論文にあるこの一文がシメになるかな。
Because many epithelia are both crowded and topologically active, we expect crowding-induced delamination to be a common process that buffers tissue growth to aid normal tissue homeostasis in a wide variety of systems.

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