2010年11月4日木曜日

生存へかける火花

cell competitionにおいて、loser cellはwinner cellに殺される、という表現は正しいだろう。なぜならcell competitionで敗者となって死んでいく細胞達も、敗者の細胞しかいないhomogeneousな環境だと生きることが出来る訳だから。一般的にこのシステムは、細胞社会の中で悪影響がある細胞を健康な組織から取り除くためのシステムの一つであると考えられている。つまりは組織のhomeostatic mechanismの一つ、もしくは発生におけるcanalization systemの一つとも言える。こう考えた場合、loser cellは自分が属する細胞社会もしくは生物個体のために自殺を促される訳だが、loser cellもこの生存競争を生き抜いてやろうともがいてはいないだろうか?主観的すぎるかも知れないが。実はもう随分前に、ある遺伝子がloser cellでupregulateされているのを発見して以来、competitionにおいてloser cellはその細胞死の運命に抗って生きようとしているような印象を持っていた。
さて、最新号のDevelopmental CellにマドリッドのDr. EMラボから、Cell Competition Screeningの論文第二弾が早速登場した。まぁ前回の「Flower」の論文で今後何本かの重要な報告が出てくるであろうことは容易に想像できたが、早い。今回の主役は、dSPARC(CG6378, Drosophila homolog of the SPARC/Osteonectin protein family, secreted multifunctional glycoprotein)という遺伝子。このdSPARCもFlower同様、cell competition誘導後loser cell specificに発現してくる遺伝子である。しかしながらそのfunctionはFlowerとは全く異なっており、互いにinteractionも見られない。以下、内容を簡単にメモっておく。
dSPARCはwild-type、M/+tub>dmycの各disc、つまり各々のhomogenousな状況ではほとんど発現していないが、M/+ clone、tub>dmycの中のWT clone、lgl mutant clone、brinker overexpressing cloneというcell competitionの状況に置かれたloser cellでspecificに発現している。しかしUAS-hidhepCAeigerのoverexpressionによってapoptosisをinduceされたcloneでは発現していないことから、このdSPARCはapoptosisによってinduceされるものではなく、cell competitionの状況においてのみloser cell specificに発現する遺伝子だと言える。また、loser cellにおいてUAS-p35dIAP1pucbskDNでapoptosisをブロックしてもdSPARCは変わらず発現しているがUAS-dppによって発現が抑制されることから、dSPARCの発現はcompetitionにおいてDppのdownstream eventであり、JNK-mediated apoptosisとはindependentな関係にあると言える。次にUAS-RNAi dsparcによってloser cellにおけるdSPARCの発現を抑えてみると、通常のcompetitionよりも早くloser cellが死んでいってしまうことが分かった。逆にUAS-dsparcをloser cellでoverexpressさせるとloser cellのapoptosisは抑制された。このレスキューの効果はp35よりも高い。これらのことからdSPARCはloser cellのprotective signalとして機能している可能性が考えられた。しかしながらdSPARC overexpressionはGMR>eigerによるapoptosis、terminalia rotationにおけるdevelopmental apoptosis、wing discにおけるrandom apoptosisやX-ray induced Caspase activationをブロックできる訳ではないことから、apoptosisのgeneral inhibitorではなくcell competition-induced cell deathにspecificなprotective signalであると言える。またさらに、S2 cellを用いて、細胞外にsecreteされたdSPARCがapoptosisに対するprotective effectを行使することも示されている。
dSPARCがcompetitionにおいてunknown secreted killing signalをどのようにしてブロックしているのかはまだ分からないが、loser cell達自身がdSPARCを発現することによって一時的に細胞死を免れようとしていることは確かなようだ。著者らは、「Transcriptional activation of dsparc protects cells against cell-to-cell differences in cellular fitness, setting a higher threshold for Caspase activation in loser cells. This mechanism allows useful cells to recover from transient and limited stress before they are unnecessarily eliminated by their neighbors.」と考察している。同意できるのだが、上に書いたようになぜか自分にはloser cellが生への執着を示しているように見えてしまうのだ。しかしまぁこのscreening、オモシロイ遺伝子がかかってきてますなぁ。とりあえず、このdSPARCがcell competitionのspecific markerとして使えそうなのは間違いない。

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