2012年11月16日金曜日

nag

先週の金曜日に予定されていたジャーナルクラブは結局今日に変更になったので、今朝論文紹介をした。発表したのは先月Natureに報告された、TI博士のラボからSO博士の論文。

Mitochondrial defect drives non-autonomous tumour progression through Hippo signalling in Drosophila.  Nature  490: 547-551.

内容をごく簡単にまとめてしまうと、ミトコンドリアの機能障害を持った細胞でRas activationが起こると、ROS(活性酸素)の産生増加にともなうoxidative stressがJNK activationを引き起こす。このJNK activationとRas activationが協同的にHippo pathwayのdownregulationを引き起こす結果、Yki activationによってdownstream targetのUpdとWgの発現が促される。secreted growth factorであるUpdとWgは、mutant cellの周辺の細胞においてJAK-STATとWg signalingをactivateすることによりnon-autonomousなtissue overgrowthを引き起こす。またこの際、このmutant cellの周辺の細胞もRas activationを持っていた場合、この周辺の細胞はinvasive behaviorを示す。ということで、ハエを使って“Warburg hypothesis”を見事に説明した論文である。

この論文、大まかな内容は去年のFly Meetingで聞いていたので大体知っていたのだけど、オンライン版に出てきた日の夜寝る前に要旨だけ読もうと思ったら結局面白くて一気に最後まで読んでしまったのだった。ということで、とってもオモシロイ論文なのである。そしてオモシロイだけじゃなくて、読み終わった時になんだかちょっと感動した。今までに報告されているいくつかの論文ではすっきりと説明できずに自分の中ではなんやらモヤモヤとしていたいくつかのgenetic pathway interactionが、oncogenic Ras activationとmitochondrial dysfunctionのcooperationによるnon-autonomous tumor progressionというストーリーの中ですっきりと説明されている気がしたのだ。あと、たぶんこの感動は自分も同じようにハエ遺伝学を使っている研究者だからということからも来ているんだろう。それは、スゴイ仕事量を理解できるということ以上に、大げさかもしれないけど、ハエ遺伝学だけでこれだけのことができるねんで、というflypusherの意地と美学を見た気がしたからだと思う。もちろん細かいところを考えていくと、今回ハエ遺伝学だけでは説明しきれなかった疑問点がたくさん残されている。
例えば、
なぜRas activationがmitochondrial mutant cloneでoxidative stressを強く促すのか?
oxidative stressがJNK signalingを活性化させるメカニズムは何なのか?
RasとJNKのactivationがどのようにしてHippo pathwayをdownregulateさせるのか?これは“data not shown”だけども、論文の最後でRas-active mitochondrial mutant cloneにおいては、E-cadherinとDlgがdownregulateされていることからepithelial integrityに破綻をきたしていることが示唆されており、このepithelial integrity disruptionがHippo pathwayのinactivationの原因になっているのではないかと考察されているけど、もしそうならepithelial integrity disruptionを引き起こすメカニズムは何なんだろうか?
もちろんこれはこれで非常にビューチフルなストーリーに仕上がっているし、一つの論文で全てのメカニズムを説明することなんて不可能な訳で、これらの疑問点は今後の研究に期待ということになりますか。

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