2010年7月20日火曜日

細胞のお花畑

先週の金曜日はドンちゃんのジャーナルクラブで、最新号のDevelopmental Cellに出た論文について発表していた。ドンちゃんは最近エライcell competitionに興味を持っているようだったので、先週この論文を教えてあげたのだった。発表を聞いていると、ところどころちゃんと実験を理解できていないところがあったので逐一フォローをしてあげながらのゼミになったけど、まぁ結構トリッキーなテクニックがポンポン出てくるのでこんなもんか。ともあれ、非常に重要な論文なのでその内容を以下にメモしておく。

 この論文は最近のcell competition研究のパイオニア的存在、MadridのDr. EMラボからのもので、cell competitionにおいて細胞が勝者と敗者を見分けるためのタグとして機能しているFlowerという遺伝子を同定したことについての報告。
まず彼らは、tub>dMyc>Gal4 cassetteを用いてcell competitionを誘導したwing discと、そのcontrolとしてtub>CD2>Gal4 cassetteによるcontrol clonesを誘導したwing discの二者間のmRNAをマイクロアレイ解析することによって、cell competitionを誘導した場合特異的に発現量の変化がある遺伝子を抽出してきた。heat shock後12~24時間でupregulateされてくるearly rensponse geneを拾ってきて、それらの発現パターンをin situで確かめたところ、少なくとも6つの遺伝子がcompetitionが起こっているloser cellでのみ発現していた。RNAiを用いて各々の遺伝子をloser cellでknockdownしたところ、このうち3つのRNAiがloser cellをレスキューすることを発見した。この論文ではこの3つのうちFlowerという遺伝子の機能について調べている。
このFlowerは進化的によく保存されたtransmembrane proteinでintracellular N-terminusとextracellularly exposed C-terminusを持っており、このC末は3つの異なるsplice isoformがある。この3つの異なるisoformそれぞれの発現パターンを見たところ、そのうち一つは全てのimaginal epitheliaにユビキタスに発現しており細胞内ではapico-lateral membraneに局在していることが抗体染色で確認された(Fwe[ubi])。これに対し、残りの2つのisoformはWT imaginal discでは発現しておらず、cell competitionが誘導されたときのみloser cell特異的に発現していることをhigh-affinity LNA probeで確認した(fwe[Lose-A] and fwe[Lose-B])。この場合、fwe[Lose]はclonal boundaryだけではなくloser cellのクローン全体で発現していた。また、このfwe[Lose]のloser cell specificな発現は他のタイプのloser cell(M/+, tkv-/-, scrib-/-)でも確認された。
このfwe[Lose] isoformのflip-out overexpression cloneはWT cellにout-competeされ、apoptosisはclonal boundaryにある細胞でのみ観察された。同様にしてfwe[Lose]を強制発現させたS2 cellもWT cellとのコンタクトがある場合にのみapoptosisが誘導され、コンタクトがない場合はapoptosisを示さなかった。さらにact-Gal4でfwe[Lose]disc全体に発現させた場合にはapoptosisは観察されず、adultのサイズや形態形成にも影響を与えなかった。つまりcompetitionにおいて、隣接する細胞同士がfwe[Lose]発現レベルのrelative differenceを感知しているのだと言える。また、fwe[Lose]が発現しているloser cellではFwe[ubi]の発現は若干低下していることから、loser cellはfweのsplicingを変えていると言えるだろう。
次に彼らはP-element imprecise excisionによってfwe null mutant alleleを作成。FLP-FRTによってwing disc上に誘導したこのfwe mutant cloneではWT cellに隣接した細胞からapoptosisを起こしてout-competeされていった。また、RNAiによるknockdownでも同様のフェノタイプが見られることから、細胞はFwe[ubi]のexpression levelの違いでも勝者と敗者を見分けることが出来ると言える。また、hsFLPによってtub>CD2>dMycのflip-out clone、つまりsuper-competitior cloneをwing discに誘導し、同時にen-Gal4とUAS-fweRNAiによってP-compartment全体でFweの発現を抑えた場合、P-compartmentではtub>dMyc cloneはWT cellsをout-competeすることはなかった。このことはまた、Fweがないと細胞は勝者と敗者を区別することができないということを示している。
一つだけ、どうしてもFigure 7H and Iの実験結果が理解できない。7HではM/+ vs. fwe-/-の状況で、fwe-/-M/+ (expressing Fwe[ubi])にout-competeされていることが示されている。もしそうならば、fwe-/-M/+に対してgrowth advantageを持っていたとしても7Iの状況(en-Gal4/UAS-FLP; ubi-GFP RpS17 FRT80B/fwe FRT80B)でもP-compartmentでfwe-/-がout-competeされてP-compartmentは全てM/+ cellで占められることにならないだろうか?
ともあれ、このFlowerというタンパクが、cell competitionにおいて細胞同士がrelative fitnessを比べ合い、勝敗を見分けるためのextracellular codeとして機能していることは間違いないようだ。

分かり易く言えば、普段健康な細胞にはきれいなお花が咲いている。つまり健康な組織は辺り一面のきれいなお花畑なのだが、そこに不健康な細胞(がん細胞になる可能性を持った細胞等)が出現した場合、その不健康な細胞はみんなとは違う変な形の花を咲かせており、周りの健康な細胞達はその変な花に気付いて、その変な花を咲かせている不健康な細胞をきれいなお花畑から排除しようとする。これはたぶん、周りの健康な細胞達が、その不健康な細胞がみんなと違う変な花を咲かせていることをなじって自殺に追い込む、という感じだろうか(ちなみに、花を咲かせていない細胞も自殺に追い込まれる)。ところが例えばお花畑の全ての花がその変な花だった場合、つまり全ての細胞が不健康な細胞だった場合、みんな自分が変な花を咲かせていることには気付かないので(もしくは別にそれでなじられることはないので)、自殺を考えるものなど出てこないのである。
さて次の謎は、なぜ不健康な細胞は変な形の花を咲かせてしまうのか?そして、細胞達はどうやってその花の形を見分けているのだろうか?ということになるが、その前にこの論文で彼らはFlower以外にもさらに2つのcell competitionに関わっているであろう重要な遺伝子(CG9233とCG3305)を見つけている訳で、近いうちにこれら二つの遺伝子についての論文も出てくるんだろうな。。。

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